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2023.06.05 遺産相続・成年後見企業法務顧問弁護士労働問題(法人)

会社経営者の方 今後の備えについて

会社経営者の方 今後の備えについて

判断ができなくなった時のための備え

判断力の低下の原因の多くは、認知症です。2020年時点の日本における65歳以上の認知症患者は約600万人であり、2025年には約700万人が認知症になると予測されています。認知症になった場合、法律行為を行えなくなる、あるいは法律行為を行うことに支障が生じている状態になってしまいます。財産の管理処分や、会社経営者としての意思決定は法律行為であるので、法律行為が無効になるリスクを負うということは、つまり、財産の管理処分や会社経営者としての意思決定が行えなくなるということです。また、十分な判断能力がないことに付け込んだ特殊詐欺などの被害で、財産を他人に奪われる可能性も高くなります。
そこで、判断能力に不安を覚えると、まず遺言書の作成を検討することが多いですが、遺言書は死亡時に効果を発揮するため、判断能力低下時への備えとしては不十分です。

法定後見制度

判断能力が低下し、法律行為ができなくなった者に代わって代理人となる者を定める制度の一つに法定後見制度(制限行為能力者制度)があります。しかし、法定後見制度は、本人の保護には十分に効果を発揮しますが、判断能力低下前に本人がやりたかったことや、生活、意思を尊重するという点では不十分です。例えば、親族のように本人のことをよく知る者が後見人になれば、本人の意思を考慮して、後見事務を行えると思われますが、一般に成年後見人は10人中7人が専門職で、親族が後見人になる可能性は低いのです。そして、本人の資産が多いと、生活に必要な資産(預貯金として、専門職が管理)以外は信託銀行等に信託する、という「後見制度支援信託」が取り入れられる可能性が高いです。この後見制度支援信託は、後見人の使い込みから資産を守るには効果的ですが、資産の硬直化が生じます。信託からの引き出しには、家庭裁判所の判断が必要になり、そのための書類・資産引き出しの理由・その裏付け資料と手続きが煩雑で難しいのです(=資産の硬直化)。後見制度支援信託を取り入れるかどうかは、裁判官が指示し、その指示に不服を申し立てることはできません。

そこで、判断能力に問題が生じた後、本人の意思を尊重した法律行為を行うことが重要である場合には、任意後見制度や民事(家族)信託の活用が必須となります。

任意後見制度

任意後見制度とは、自分の判断能力が不十分になった場合に備えて、そうなる前の段階で必要な法律行為を代わりにすることをあらかじめ他人にゆだねる制度です。制度の活用には、任意後見契約が必要です。任意後見契約は、任意後見受任者に後見事務を委託し、その事務に必要な代理権を授与する委任契約であって、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された時から効力が生じます。これには、公正証書の作成が必要です。任意後見監督人は、任意後見人が正しく後見事務を行っているか、監督します。この任意後見監督には契約内であらかじめ決めることはできませんが、契約書内に、指名希望を記すことはできます。指名希望と理由を明記すれば、希望通り指定される可能性は高いといえます。

任意後見制度活用のポイント

  1. 任意後見人制度は、後見人を自分で選ぶことができます。それはつまり、本人の事情・意思を尊重できる人を選ぶことができる、ということです。後見人を複数人にすることもでき(互いに監視できる)、万が一、後見人に何かあっても引き続き本人の意思を尊重した後見ができるのです。
  2. また、法定後見の際の信託は、裁判官の指示によるものになりますが、任意後見の場合は適用されないため、資産の硬直化が起きません。
  3. 資産の使い道を指定することもできます。医療機関や医療サービスの選択、家族の扶養の指定、会社の意思決定などを任意後見契約に記載しておくことで、自身が判断能力を欠いた後も、滞りなく法律行為が行われるように準備します。ただし、包括的な指定は許されていないので、柔軟な利用を期待する資産や、自分以外の者のために必要なもので明確に使い道が決まっている分は、信託を活用すると良いでしょう。

信託の活用

相続税対策、資産承継・事業承継準備、自社のための利益提供などが必要になる場合がありますが、これらは必ずしも直接的に本人の利益になるものではなく、むしろ本人に損を負わせる危険の高いものである場合があります。また、家族への経済的支援・扶助は、任意後見契約書を作成する時点では予測できない支援が必要となる場合があり、契約書内に記載がないために支援ができない場合もあります。その他、自社株の議決権行使のように後見事務として任せることが不適切なものもあります。こうした場合に、信託を活用します。

信託は、委託者・受託者・受益者の三者間で信託契約書を締結することで成り、受益者のために委託者が保有する特定の資産を受託者に移転し、受託者は信託契約書の目的・内容及び委託者の指図に従って資産を管理・処分します。判断能力の問題対策として信託を活用する場合は、「委託者は資産を持つ本人」、「受託者は後継者親族」、「受益者は資産を持つ本人」とする場合が多いです。委託者と受益者を同一にする理由は、資産移転に伴う課税を受けないようにするためです。

例えば、株式を信託財産に組み入れることで、意思能力をなくした後の議決権行使を、信託契約の目的・内容に沿って受託者が行うようになります。ここで、受託者を後継者にしておけば、事業承継の点からもスムーズな会社運営の手助けとなります。

また、意思能力がなくなる前は、委託者(資産を持つ本人)は指図権を行使して信託財産の管理処分をコントロールできるため、判断能力がある時点で信託を契約しても問題はありません。むしろ、事業承継の点では、後継者が受託者となって、大株主目線で議決権行使を検討できることは、将来の事業承継準備にもなります。また、信託には、信託監督人をつけることもでき、契約上で希望の者を定めることができます。自分が意思能力をなくした後に、受託者が身勝手な管理処分をすることのないように、ファミリーの中で相応しい者や弁護士を信託監督人として指名しておくことが良いでしょう。

ご相談は、半田みなと弁護士事務所へ。お待ちしております。